漢方と不妊症

「そろそろ赤ちゃんが欲しい」と思っても、すぐに妊娠できるとは限りません。妊娠・出産が気になり始めたら、自分の体と向き合うところから始めましょう。

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漢方視点の不妊対策とは?

近年、晩婚化や女性社会進出が進み、出産年齢の高齢化が進んだことから、不妊に悩む夫婦が増えています。不妊治療に取り組んだものの、なかなか妊娠に結びつかず、治療に疲れ果ててしまうというケースもあります。「子供は神様からの授かりもの」などといわれることがあるように、なかなか思い通りにならないことがあるのが妊娠です。

『妊娠しやすい体質』づくりのために、漢方では、『元気な卵子をつくる』ということと『女性のからだの若々しさを保つ』という二つの視点があります。

例『元気な卵子をつくる』という目標;Aさん(女性、40歳)

「結婚して7年になりますが、まだ赤ちゃんを授かりません。4年前から出産を真剣に考えるようになりましたがなかなか妊娠せず、3年前から婦人科で不妊治療を受けています。検査で異常はみつかっていません。医師からは、卵子が古いので妊娠しにくいのでしょう、と言われています」

漢方の不妊治療には、「元気な卵子をつくる」「女性のからだの若々しさを保つ」という2つの柱があります。Aさんは、結婚後も会社勤めをしていますが、仕事が忙しく、深夜に帰宅することもしばしばで、かなり疲れています。食事に気をつけたいとは思っているそうですが、仕事の関係で外食で済ますことが多いのが現状です。舌は白い色をしています。

これまでに人工授精を8回、体外受精を3回しましたが、うまくいきませんでした。仕事が忙しいうえに、不妊治療で婦人科に頻繁に通院せねばならず、最近は病院での不妊治療に身も心も疲れ果てたと感じており、しばらく不妊治療は休むことにしました。月経は安定しており、基礎体温は二相に分かれています。ご主人の精子に問題はありません。

なかなか子どもを授からないという悩みは昔からありますが、最近では晩婚化や出産年齢の高齢化が進んだことから、不妊に悩む夫婦が増えています。女性が妊娠する確率は、年齢とともに低下します。体外受精の成功率も、年齢とともに低下していき、特に35歳を超えるとどんどん下がります。

不妊の原因は、腎や気血の不足

西洋医学的にみると、不妊には、卵子の状態がよくない、排卵がうまくいかない、卵管が通りにくい、受精卵が子宮内膜に着床しにくいなどの原因が考えられます。排卵障害には、ホルモンバランスの失調や、多嚢胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症などの病気が関与する場合があります。また子宮筋腫や子宮内膜症があると受精卵が子宮内膜に着床しにくくなり、妊娠の可能性が下がります。淋菌などの感染や炎症があると、卵管が狭くなり、あるいは閉塞し、これも不妊の原因になります。そして、加齢も不妊の大きな原因のひとつです。卵子も子宮も年齢とともに質が低下します。

精子の状態がよくない場合もあります。精子の運動能力の低下や、数の減少、高い奇形率などの要因があれば、不妊の原因となります。不妊の原因の約半分は男性側にあるといわれています。ただし、検査をしても異常がみつからない原因不明の不妊も多く、不妊症全体の約3分の1が現代医学では原因不明の不妊といわれています。

最近の傾向として、女性の体は女性ホルモンが支配しているかのような言い方をされることが多いように思います。人工的にでも、女性ホルモンさえコントロールしていれば、妊娠も更年期も簡単にうまくいく、という考えです。確かに、排卵や月経、更年期などが女性ホルモンと関係が深いのは事実です。しかし、わたしたちはホルモンの操り人形ではありません。逆に、わたしたちが生きていく上で必要だからホルモンが存在しているはずです。ホルモンという目に見える「物質」が注目されがちですが、その背景にある「生命力」を高めることこそ基本的で大事なことだと考えています。

漢方は、生命力を高める“医療”です。漢方においては、腎(じん)や気血(きけつ)といった人体の機能的要素が、「妊娠しやすさ」とダイレクトに関係していると考えます。

腎虚体質の不妊には八味地黄丸

Aさんは、年齢、不妊治療の経緯、過労、疲労倦怠感、乱れた食生活、白い舌などから、「腎虚(じんきょ)」証と考えられます。腎は臓器としての腎臓ではなく、漢方における人体の機能的単位である五臓のひとつです。腎は、成長・発育・生殖をつかさどり、婦人科系やホルモン内分泌系の機能は腎に含まれます。腎が衰えると、生殖機能が弱くなります。腎虚証になる原因には、過労、不摂生、乱れた食生活、大病、加齢などがあります。

この体質の場合、漢方では腎の機能を補う漢方薬で改善を図ります。これを補腎(ほじん)といいます。代表的な処方は八味地黄丸(はちみじおうがん)です。弱った腎機能を立て直し、卵子を丈夫に元気にし、「妊娠しやすい体質」にしていきます。この女性は、漢方薬を飲み始めて4カ月目に妊娠しました。

検査で異常が見つからないのに、なかなか妊娠しない場合、卵子に元気がないか、あるいは女性が弱っていて妊娠どころではないという場合が多いと考えられます。 卵子や子宮が生き生きとしていなければ、妊娠もしづらいことでしょう。Aさんの例は、「元気な卵子をつくる」のを目標に漢方薬を用いた例です。

例女性のからだの若々しさを保つ』という目標;Bさん(女性、38歳)

Bさん(女性、38歳)
「そろそろ赤ちゃんがほしいと思うのですが、なかなか妊娠しません。冷え症なので、それが関係しているのかもしれません。強い月経痛があります」

Bさんは、かなりの冷え症で、手足の末端だけでなく、おなかも冷えます。月経痛は、月経の初日と2日目に、さし込むような痛みに襲われます。近ごろは職場のストレスを強く感じており、いらいらしたり落ち込んだりしやすくなりました。舌は赤紫色をしています。

漢方の不妊治療には柱がふたつあります。ひとつはAさんのケースのように「元気な卵子をつくる」ことで、もうひとつは「女性のからだの若々しさを保つ」ことです。Bさんのケースは後者の例です。

気血の流れの不調が原因の不妊症には、桂枝茯苓丸や四逆散

漢方では、女性が心身ともに元気で充実しているときに妊娠しやすいと考えます。漢方で生命力をあらわす概念に、生命エネルギーに近い概念の気(き)や、人体に必要な栄養に近い概念の血(けつ)があります。これら気血が量的にたっぷりあり、しかもさらさらと流れている状態が、「妊娠しやすい体質」です。

Bさんは、冷え症や、さし込むような月経痛があるので、血行がよくない「血瘀(けつお)」証です。この証には血流を改善する桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などがよく使われます。さらにストレスの影響で気の流れが滞っている「気滞(きたい)」証でもあります。この証には気の流れを改善する四逆散(しぎゃくさん)などを用います。

Bさんはこの両方を兼ねる「気滞血瘀」証ですので、両方の処方を服用してもらいました。半年後に自然妊娠しました。
気血の流れには問題はないが量が足りない場合は、気を補う四君子湯(しくんしとう)や、血を補う四物湯(しもつとう)などを使います。

6割以上の夫婦が第二子のときに不妊治療を経験

夫婦の間の生殖機能に大きな問題がなく、一人目を授かったのに、なかなか二人目を授からない状態を「二人目不妊」と一般的に呼びます。一人目は特に意識しなくても妊娠したのに、二人目はなかなか授からないというケースは少なくありません。

二人目不妊の決まった定義はありませんが、タイミングを合わせて性交渉をしても、半年くらい授からなければ、二人目不妊と捉えて、治療を始めるタイミングだと言えます。

二人目不妊の原因は?

● 卵子の質の低下
初産年齢が上昇している現在、二人目を望む年齢も必然的に上がっています。加齢によって卵子の質が低下しているため、妊娠しにくい状態になっています。

● 多忙な毎日でセックスレスに
育児・仕事に追われて性交渉を持つ気になれない人は非常に多く、妊娠のチャンスが激減してしまいます。排卵日を狙って性交渉をすることは男性にとってもプレッシャーになり、勃起障害を引き起こす原因にも。

● 子宮トラブルの増加
加齢にともなって、子宮筋腫や子宮腺筋症などの子宮のトラブルが増えると、妊娠しにくくなることが考えられます。

● 男性側の不妊原因の増加
ストレスや加齢によって精子の質が低下するケースがあります。ある男性のケースでは、数年で精子の数が10分の1まで減りました。二人目不妊を疑ったら、精子の検査も併せて受けることをおすすめします。

● 授乳後の影響
母乳を作るプロラクチンというホルモンは排卵を抑制するため、授乳中は妊娠しづらい状態になります。断乳して生理が再開するとプロラクチンの値が下がりますが、時々高いままの状態の人がいます。プロラクチンの値が高いと妊娠しにくいので治療が必要です。

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